- 2009年9月25日 5:29 PM
- 話
道具の準備をし、早起きに備えて、早い時間に床についた。
しかし、気が高ぶって眠れない。
結局、2時を過ぎても眠れず、
「このまま寝てしまったら寝坊する・・・」
出発した。
3時、現場に到着。
他の釣り人は来ていない。
あたりはまだ真っ暗だ。
車から道具を降ろし、藪の中を歩いていく。
しばらく歩いたところで、立ち止まった。
「水が・・・」
そう、折からの渇水で水面がかなり下の方に見えるのだ。
普段水面であろう場所から下は、土の斜面になっている。
真っ暗な中では、足を滑らしかねない。
おそらく足を滑らせたら、蟻地獄のごとく水面まで落ちていき、這い上がることも難しいと思われた。
が、
ふと横を見ると、ちょうど足場になりそうな石が埋まっている。
それが水面の所まで段々に続いていた。
「ラッキー」
男はそう思った。
道具を担ぎ、下まで降りていく。
隣の石に道具を起き、かすかに白み始めた水面にルアーを投げ込む。
足場が足場だけに、早々場所も移動できず、
その場所から時折方向を変え、キャスティングした。
半ば諦めかけた頃、何となく後ろに人の気配を感じた。
「誰か来たかな?」
と思いつつ、次の一投をキャスティングし、ルアーを沈めている間に振り返った。
誰もいない・・・・
が、男はギョッとした。
さっきまで真っ暗で見えなかったが、階段状にあった石は、どれも皆上面が真っ平らになっている。
しかも、家紋らしきものが土に埋まりかけたところにみえる。
自分の足下も同じような石だ。
「ここはダムに沈んだ集落の墓地だったんだ・・・・」
いくらなんでも、墓石の上で釣りを続けるわけにも行かないので、
場所を移動しようと、リールを急いで巻き上げた。
そのとたん、グッと重い手応えがあった。
水中に沈んだ木にルアーが引っかかってしまったのだ。
このルアー、かなり高価なものだった。
このまま糸が切れてしまうのも惜しいので、何とか回収を試みる。
しかし、どうやっても木に針が食い込んでいるようで、とれない。
とうとう男は諦めた。
ロッドをまっすぐに引き、糸を切ろうと引っ張った。
通常は、この動作で糸は切れる。
だが、
切れない。
「そうだ、ルアーを回収できるように丈夫なライン巻いてきたんだ・・・」
仕方なくはさみを取り出すことにした。
でも、最後にもう一回、と思って強く引っ張ってみた。
そのとたん、目にもとまらぬ速さで、自分にまっすぐ向かってくるルアー。
手元が軽くなってから、右足太ももに激痛が走るまで、おそらく1秒もかかってないだろう。
瞬間的に身をひねり、避けようとしたが、右足太ももの裏にザックリ突き刺さってしまった。
しかも、このルアーはバーブレスにしていない。
先端のカエシの部分までブッッスリ突き刺さっているのだ。
血がドクドク流れてくる。
仕方なくズボンを切り、刺さった箇所のすぐ上で縛って止血し、車に引き返した。
日曜日で、しかも山奥のダム湖、近くに病院などあろうはずもなく、
自分でペンチを手に引き抜いた。
持って行ったタオルで縛り直し、先ほどの場所へ向かった。
手を合わせ、無礼を詫びた。
そのとき以来、ここには釣りに行っていない。
このようなことが、八ツ場ダムにも起こらないことを祈る。





写真提供:hana http://hana-photography.com

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